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技術情報

1. レーザー顕微鏡の原理

はじめに

近年の電子機器類などの著しい小型化・高集積化を実現している要因の1つとして、構成部品である電子部品の微細化が挙げられる。また、自動車、航空、金属、化学等の産業分野でも微細な機能性素材が新たに開発され、利用が広まってきた。これに伴い、それらの部品や素材の微小3次元計測の要求も、より高精度・高分解能なものが求められる。これらの要求を満たすためさまざまな装置が提案されているが、そのなかでも非接触で大気中にて簡単に表面形状を3次元計測できる装置として、共焦点顕微鏡が注目されている。そこで、特に高分解能で検出することを目的とした、反射式共焦点レーザー顕微鏡(以下レーザー顕微鏡)を中心に、その基本的な原理、オリンパスの工業用レーザー顕微鏡の特長とアプリケーション事例について解説する。


1-1. コンフォーカル(共焦点)光学系

レーザー顕微鏡の原理の中で、最も基本的な特徴がコンフォーカル(共焦点)光学系である。一般的な光学顕微鏡の結像光学系とコンフォーカル光学系を図1に示す。コンフォーカル光学系では、対物レンズの焦点位置と共役な位置(像位置)に円形の開口をもつピンホールを配置することで、焦点のあった位置のみの光を検出することが可能となっている。通常の光学顕微鏡では、決められた領域を均一に照明することが重要になるが、コンフォーカル光学系においては点光源から出射した光は、対物レンズによりサンプルの1点に集光するように照射する。点光源として、一般的には特定の波長をもち直進性に優れているレーザー光を使用し、強い光を1点に集光させるので、サンプルを均一に照明する通常の光学顕微鏡に比べ、周辺からの不要な散乱光がなく、コントラストが向上する。次にサンプルの表面にて反射された光は同じ光路を戻り、ビームスプリッタにより分離されて、ピンホール上に集光される。この光学系では焦点以外からの反射光は、ほとんどがピンホールでカットされ、焦点位置のみの情報が得られる。以上よりコンフォーカル光学系では光軸方向に分解能をもつこととなり、それにより後から述べるような、3次元計測が可能となる。また、通常の光学顕微鏡では焦点位置以外からのぼけた画像が重畳しているのに対し、コンフォーカル光学系では焦点位置以外からの反射光は、ピンホールでカットされ、焦点の完全にあったコントラストのよい、クリアな画像を形成することが可能となる。コンフォーカル光学系で使用されるピンホール径はビームスポットの回折による広がりよりも小さく設定することが適切であるとされているが、ピンホール径が小さくなるにつれ、得られる光量も小さくなることから、検出器の感度とのバランスにより決定される。ここでは概念図を用い、原理説明を行ってきたが、光学系の詳細については参考文献※を参照されたい。

図1: 光学顕微鏡の結像光学系とコンフォーカル(共焦点)光学系
光学顕微鏡の結像光学系とコンフォーカル(共焦点)光学系


1-2. 2次元走査

前述したように、コンフォーカル光学系では光軸方向のみの情報しか得られないため、画像化するには、光軸に直交する、何らかの2次元走査系が必要となる。この2次元走査系にてラスタスキャンを行い画像化するため、この走査系の精度が直接画像性能を決定する。このため正確に2次元走査をする必要があり、レーザー顕微鏡で最も重要な技術の1つである。走査系としては、一般的にサンプル走査方式とレーザー走査方式の2つの方式に分類できる。前者はサンプルを載せたXYステージを走査することにより実現される。この方式では、広範囲にわたって画像化が可能であり、またコンフォーカル光学系を走査する必要がないため、コンフォーカル光学系を簡単に構成することができる。さらにXYステージは比較的に容易に正確な駆動が行える。ただし取り込み時間が膨大となり、また高分解能にて観察する場合は、サンプルを含めXYステージを微細に駆動させることが必要となってくる。後者はレーザービームを2つの走査機構で、X、Yそれぞれの方向にサンプル上を2次元走査することで実現される。サンプル表面の大きなうねりを捉えるのは前者、微細形状を捉えるのは後者が適切といえよう。一般的に工業用途のレーザー顕微鏡では画像を取得する時間を優先し、ほとんどレーザー走査方式が採用されている。レーザー走査機構としては、X方向には高速走査の必要性から、音響光学偏向素子(AOD:acousto-optic deflector)やポリゴンミラー、共振型ガルバノミラーなどが使われている。これらの走査機構を簡単に紹介する。


1-2-1. 音響光学偏向素子(AOD)

音響光学偏向素子(AOD)は、光の回折を利用した素子である。物質に超音波を周波数変調させて与えると、物質内での屈折率変化が回折格子として働き、光の偏向角度すなわちレーザー走査が行える素子である。最も高速走査が可能であるが、走査範囲が限定され、かつデスキャン(サンプルからの反射光が再び入射すること)により極端に効率の低下をまねくため、デスキャンを行わない構成にする必要がある。このため、ラインセンサとの組み合わせなどの工夫が行われている。実際にAODを採用し製品化されているものもある。またレンズ効果により、非点収差が発生するため、使用時は充分注意することが重要である。


1-2-2. ポリゴンミラー

ポリゴンミラーは最も簡単な構成で実現でき、レーザー走査が必要な幅広い分野で利用されている。多面体の各面をミラーとし、モーターなどで高速に回転させることにより、レーザーを走査する。回転速度が一定と考えて、ミラーの面数によりレーザーの走査速度とレーザーの走査角度が決定される。ミラーの速度ジッタや面精度、偏心を含めた回転精度が走査精度を決定するため、きわめて精密に調整する必要がある。


1-2-3. 共振動型ガルバノミラー

共振型ガルバノミラーは小型で比較的振り角を大きくできるレーザー走査機構である。速度は機械的な共振周波数で決まるので、他の走査機構に比べて高速化の面で制約があるが、近年では1メガピクセルの画像取得を毎秒数枚程度取得できるようになってきている。 またMEMS(micro-electro-mechanical systems)の技術で製作したミラーも開発され、装置の小型化が可能となっている。このMEMSスキャナーは単結晶シリコン基板からエッチングにより可動板、トーションバー、支持枠を一体加工したものである。また可動板にはコイルが形成され、磁気回路により駆動される。これらの高速な走査機構の特徴を生かし、比較的低速のY方向への走査機構と組み合わせることで、2次元走査が実現できる。Y方向の走査機構には、扱いやすさからも非共振型のガルバノミラーを使用することが多い。


1-3. 共焦点効果とエクステンドフォーカス画像

図2: I-Zカーブ
図2:I-Zカーブ
前述のコンフォーカル光学系により得られる効果を図2により説明する。この図は、この効果を確認するため、コンフォーカル光学系において2次元走査を行わず、サンプルと対物レンズを相対的にZ方向に移動させながら取得した、ピンホールを通過後の検出器の出力を縦軸に示している。横軸はZ方向の移動距離である。一般的にこの波形をI-Zカーブと呼んでいる。ピンホールを取り外した非共焦点出力と、同じ条件にて取得した共焦点出力とを比較すると、コンフォーカル光学系は急峻な波形であることがわかる。この特性を利用して、レーザー光を2次元走査し、かつサンプルと対物レンズを相対的に移動しながら、画像上の画素ごとに最も明るくなった輝度値を保存すると、段差のあるサンプルのすべての高さ位置に焦点のあった画像(エクステンドフォーカス画像)が得られる。実際に取り込む様子を図3で説明する。図の1番上の面にレーザー光を2次元に走査し、フォーカスを合わせると、コンフォーカル光学系の特性から、ぼけ像はカットされるため、四角い部分だけが画像化され、さらにZ方向に移動させ2番目の面にフォーカスを合わせるとL字の部分が画像化される。これを順次繰り返し、それぞれ面の画像を取り込み重ねると、水平方向の分解能が高い状態で、サンプルの各面すなわちすべての面にピントの合った、焦点深度の深い画像(エクステンドフォーカス画像)が得られることとなる。

図3: エクステンドフォーカス画像

共焦点


1-4. 3次元画像

コンフォーカル光学系においては、輝度が最大、すなわち最も明るくなったZの位置がサンプルの表面の高さ情報を表すことになる。そこでこのことを利用し、輝度が最大となったときのZ位置を記録することにより、サンプルの高さ情報を取り込むことが可能となる。図4にて実際の取り込む様子を説明する。エクステンドフォーカス画像の取り込みと同様に、サンプルと対物レンズを相対的に移動させ、高さZ1からZ2方向に移動しながら、各画素ごとに最も明るくなる、最大輝度が得られたZ位置情報を保存する。これにより、画像を取得した領域において、サンプルの表面形状を得ることができる。この情報をもとにして、さまざまな解析を行うことが可能になる。以上のことから、各画素ごとに輝度の最大値をエクステンド画像メモリに、さらにそのときの高さを高さ画像メモリに取り込むことによって、輝度情報と高さ情報の両方を同時に得られることになる。このことは、他の顕微鏡と異なり、コンフォーカル顕微鏡の最大の特徴であるといえる。

図4: 高さ画像の取り込み
図4:高さ画像の取り込み

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