リン酸塩調査におけるポータブル蛍光X線(pXRF)分析法の役割
ポータブル蛍光X線(pXRF)分析法は、過去10年にわたって探査・採鉱業界で行われたリン酸塩調査において、現場の地球化学分析の実行可能な方法として証明されています。 オリンパスVanta™ pXRF分析計は、リン酸塩のリアルタイムの定量化および分析が可能なことから、この用途で重要な役割を果たしています。 このアプリケーションノートでは、リン酸塩探査で使用される重要なリン酸塩鉱物やその他の元素を、Vanta pXRF分析計で正確に測定する様子について説明します。
リン鉱石の元素分析
一般に、リン酸塩が見つかる5種類の天然鉱床としては、海底堆積物、火山性土、変性鉱床、浸食土壌、生体鉱石があります。1 リン鉱石には、質量の2%~10%のリン、または4%~20%のP2O5が含まれています。 高い活力レベルのリン酸塩鉱山が相次いで枯渇するにつれ、上質のリン酸塩源の供給量が低下する確実な傾向が見られています。2 この低下によって、濃度レベルや多数の元素全体で精密かつ正確な測定値へのニーズが高まりました。
Vanta™ pXRF分析計は、マグネシウム(Mg)からウラニウム(U)までのほとんどの元素を、多くの場合1桁の100万分の1(ppm)単位まで検出できます。 Vanta pXRFがリン(P)を確実に検出できる一方で、その他の検出可能な元素もリン酸塩採鉱にとって重要です。 バナジウム(V)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、鉛(Pb)、トリウム(Th)、ウラニウム(U)などの元素はパスファインダー元素として知られています。これらの元素は、鉱山の高産出量地域を見つけるために使用できます。
リンの濃度を判別するだけでなく、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)などの軽元素も判別できることが、高い効果のあるツールに不可欠です。 Vanta分析計はこれらの元素を始めとする成分の濃度を、ほんの数秒のうちにその場で正確に提供でき、試料の前処理は最低限で済みます。 この能力は、作業現場でリアルタイムの判断をするために非常に有益で、試料を外部のラボに送ることなど、費用の掛かるダウンタイムが削減されます。
図1: お客様から提供された各種試料を使用して、リン鉱石試料に含まれる元素の認証値と比較したVanta™ pXRFの性能
上のデータは、お客様が採取した実際の試料から作成したさまざまな標準材料について、Vanta pXRF分析計のすぐに得られる性能を示したものです。 標準データとVanta pXRFの結果との高い相関は、各種のリン鉱石試料から用意された試料に対して、Vanta分析計が優れたデータ品質を提供することを示しています。 試料の検査時間は平均して1分に満たず、試料の前処理も最小限で済みます。 試料の前処理には、手動による短時間の粉砕やすりつぶしで粒子サイズを0.2 mm未満にして標準試料容器に集める作業が含まれます。
リン酸塩鉱化
現在採掘されるリン酸塩の多くは、堆積リン灰石からのものです。 リン灰石の一般的な化学式はCa10(PO4)6(OH,F,Cl)2で、リン鉱石のコロファナイトと呼ばれています。 高い経済的価値を持つ、リン鉱石が含まれたリン酸塩鉱床には、20%超のP2O5と35%超のCaCO3のほか、マグネシウムや酸化アルミニウムなど微量の酸化物も含まれている可能性があります。
オリンパスVanta pXRFでは、元素濃度の計算や、鉱物と化合物の濃度もリアルタイムで計算できます。 分析計の使いやすいユーザーインタフェースで、計算された濃度を化合物として表示するように分光計を設定可能です(図2参照)。 Vanta™分析計のソフトウェアによって計算が行われ、元素と化合物の結果表示の切り替えには数秒しかかかりません。
図2: リン鉱石含有の認証標準試料(CRM)に対する、Vanta分析計の化合物機能を無効にした場合(左)と有効にした場合(右)のスキャン結果
世界の三大リン酸塩生産国である中国、米国、モロッコには、現在採掘可能なリン鉱石が7,500万トン超存在すると推定されており、世界中で合計年間2億トン超が採掘されています。3、4 リン酸塩鉱床には莫大な潜在的経済価値があるため、鉱業・探鉱業界は大いに関心を持っています。 採掘されたリン酸塩は、洗剤、飼料、工業用化学薬品など、数多くの産業で使用されている一方、リン酸塩の90%超は窒素リンカリウム(NPK)肥料に使用されています。4 今なお開拓されているリン酸塩を採掘した場合の推定価値は、22億ドルを超えます。
リン鉱石の副産物
リン鉱石の多くは、レアアース元素(REE)やウラニウム(U)など、高い価値のある材料を相当量含んでいます。 これらの材料への需要が世界的に高まるにつれて、元素の微量濃度を分析する能力が経済的に重要になっています。 既存の鉱山や鉱床よりも最近のリン鉱石鉱床の方が、該当材料の産出量は高くなっています。5 Vanta™分析計は、軽元素と酸化物に対する性能に加えて、高コストの重元素を正確かつ精密に計算できます。6
下のグラフは、Ore Research and Exploration Assay Standards(OREAS)社提供の有効レベルのREEを含むリン鉱石の認証標準試料(CRM)に対する、Vanta pXRFのすぐに得られる性能を示しています。 CRMデータとpXRF分析計で計算された濃度の高い正確性と精度から、リン鉱石の経済的価値の高い材料について、Vanta分析計が高速で高品質のデータを提供できることがわかります。
図3: OREAS社提供の試料を使用して、レアアース元素(REE)の標準値と比較したVanta pXRFの性能
オリンパスVanta™ pXRF分析計が持つ分析上の利点
オリンパスVanta pXRFは、他のXRF検査機器や検査方法よりも、分析上の利点がたくさんあります。 主な利点は以下のとおりです。
- 試料の前処理が最小限で費用を低減
- 資料室、外部電源、圧縮ガスなどの追加のハードウェアや検査要件が不要
- 高速で高スループットの検査により、精度の高い正確な結果を数秒で取得
- 費用の掛かるラボ検査や現場でのダウンタイムの必要なくオンサイトスキャンが可能
VantaポータブルXRF分析計の詳細は、当社ウェブサイトをご覧いただくか、お近くの販売店にデモの設定をお問い合わせください。
参考文献
- Hasikova, J., Sokolov, A., Titov, V. and Dirba, A., 2014. On-line XRF analysis of phosphate materials at various stages of processing. Procedia Engineering, 83, pp.455-461.
- Lemiere, B., 2018. A review of pXRF (field portable X-ray fluorescence) applications for applied geochemistry. Journal of Geochemical Exploration, 188, pp.350-363.
- Britt, Allison. "Phosphate." AIMR Report 2013 (Report). p. 90.
- Stephen M. Jasinski, "Phosphate Rock". US Geological Survey, Minerals Yearbook, 2013
- Emsbo, P., McLaughlin, P.I., Breit, G.N., du Bray, E.A. and Koenig, A.E., 2015. Rare earth elements in sedimentary phosphate deposits: solution to the global REE crisis?. Gondwana Research, 27(2), pp.776-785.
- Litofsky, J. Portable XRF for Rare-Earth Element Identification and Exploration [White paper]. 2020. Olympus Corporation of the Americas.