軍事用および民間用を問わず、航空機の安全運行のために数限りないほどの非破壊検査が日常的に実施されています。離陸時、飛行中、および着陸時の応力によって割れが発生すると、航空機の寿命に悪影響を及ぼすばかりでなく、乗客や乗員などの安全性を損なうことにもなります。 最近の航空機は機種によっては600万個を超える数の部品を持ち、その半分は何らかの形態のファスナーを使用しています。航空機ファスナーには多種多様な形状とサイズがあり、さまざまな非破壊検査法(超音波、渦流、遠隔目視など)によって、内部と周辺部の損傷が検査されます。これらの検査は部品装着時ばかりでなく、取り外し後にも行われます。ファスナーを取り外すことなしに周辺部の検査をすることが可能であれば、非破壊検査に要する時間を節約できるばかりでなく、取り外し工程で損傷がさらに発生するのを防止できるという点においても大きな意味があります。航空機ファスナーの検査を目的として新型ポータブル自動スキャニングシステムが開発されました。軍用機(F5/T38)を対象とした装置ですが、他の航空機への応用も非常に有望です。このシステムは“AFIS”(Automated Fastener Hole Inspection System)と呼ばれています。この装置は、豊富な実績を持つOmniScanポータブルフェーズドアレイシステムを中心に据えて構築されました。
特有な問題点
AFISが注目して解決しようとする問題は、航空機のアルミ外板のなかでも特に損傷を受けやすいとされる箇所である皿穴(Countersink)や接合面(Faying Surface)の割れ検出です。 軍用機でも民間機でも同様の問題が起こりますが、主たる相違点は、一方の航空機ではファスナーの頭が平面化処理されているのに対して、他方の航空機では平面タイプと突出タイプの両方が使用されていることです。 検査が必要な箇所は翼下側の外板ですから、翼の下方向から作業を行います。また、できるだけ部品を取り外すことなく、ファスナー間の限られたスペースで作業を行わなければなりません。
検査領域の詳細(側面)
従来の検査法
これまでは、シングルビームで、水を満たしたシューシステムを使用して、作業者が手動で検査を行っていました。この方法では、注目する領域にシングルビームを投射するために領域ごとに非常に微妙な機械的調節が必要です。さらに、方位の異なる割れにくまなく対応するためには2回のスキャン(時計方向、半時計方向)を行わなければならず、その都度調節が必要でした。 使えるビームが1本のみであり、調節の良否が結果に大きく影響するため、作業に長い時間が必要でした。それ以外にも、データを保存できない、交換部品の調達や再現が難しいなどの問題がありました。
従来型超音波スキャナー
AFISシステム
AFISシステムの開発に使用した主要コンポーネント:
- OmniScan データ取り込みユニット
- モーターコントローラ ー
- 自動スキャナー(突起、Phillipsタイプに対応する適切なセンタリングデバイスを使用)
- 振動素子が16のフェーズドアレイプローブと、必要な領域をスキャン可能なウエッジ
- 典型的なノッチやファスナーを備えた試験片
AFISの操作
下の図に示すように、AFISシステムは、1回のスキャンだけで、それぞれの接触面に複数のビームを同時に投射してスイープすることができます。センタリングデバイスを使用していますから、ファスナー中心からプローブまでの適正な位置関係が保証され、ボタンを押すだけでファスナー周り360度以上のスキャンが行われます。検査が終わると、デバイスは自動的にホーム位置へ復帰して次のファスナーに備えます。検査位置間の走査やファイル保存、データ取り込みの一時停止、ホーム位置復帰など、大部分の操作はスキャナーインターフェイスから実行することができます。また、ファスナー周りのスキャン方向(時計方向/反時方向)については、スキャナーを機械的に設定して適正な向きに調節します。接触方法は、水系の接触媒質を細かい霧状にして吹き付けるだけで十分であり、塗膜を剥がす必要はありません。試験片はあらゆる外板厚みに合わせて構成されており、そのデータが保存されていますから、そのデータを呼び出すだけで簡単に1つのファスナー領域から次の領域へ移行することができます。それぞれの検査領域をユニット上に表示させる標準的な方法として、振幅信号ベースのS-スキャンおよびC-スキャンを使用します。頭よりも上の位置で頻繁に使用する装置ですから、軽量であることが非常に重要です(装置構成にもよりますが、おおよそ2~3ポンド)。 航空機の下の暗い場所での作業性を考慮して照明ランプを備えています。 すべての部材が1つのペリカンケースに収まりますから、輸送/発送も簡単です。これまでのシステムは、検査要件に従い、個々の表面の0.03~0.05インチ程度のノッチを検出するように設計されていましたが、これとは別な感度を得ることも可能でした。
スキャンの詳細と、代表的な機器レイアウト
典型的な検査領域にAFISスキャナーを適用した例
AFISシステムの利点
- 接合面や皿穴表面をあらゆる角度から同時に検査
- 自動的にスキャンを行い、すべてのデータを保持
- フェーズドアレイ画像と複数の角度からの測定による検出確度の向上
- スキャナーキーパッドを使用して、大部分のシステムコマンドを手元で簡単に操作可能
- 人間工学に即した軽量スキャナーと右側と左側に配置したキーパッド。何通りにも可能な保持姿勢が疲労を軽減
- 航空機検査用として、日常の粗い使用にも耐える堅牢設計
- OmniScan をベースとするプラットフォームにより、他の検査法(UT/PA/EC/BT)にも適用可能 (ニーズに応じて、MXまたはMX2の適用も可能)
- 外板の厚み、ファスナーのタイプ、検査変数に応じて容易に調節可能 (確認済み範囲:厚み約0.18~0.66インチ、ファスナー直径5/32、3/16、1/4、5/16インチ。現行バージョンはPhillipタイプと突起タイプファスナーの両方に対応します)
- ポータブルフレキシブルデジタルシステムと組み合わせ使用可能 (ヘッドアップディスプレーガラス、アクセスの難しい箇所向けの従来方式UTスピニングデバイス、検出の難しいタイプの割れに適した横方向スイープ構成など)
- 装置内だけですべての解析を実行可能、また、外部ソフトウェアで事後解析も可能。 デジタルアラーム機能も使用可能
- 校正確認と調節が短時間で可能
結論
オリンパスはスタイルの異なる2種類の軍用機のファスナー穴検査に適した新しい自動フェーズドアレイシステムを開発し、現場に適用しました。 このシステムは多くの利点を持ち、可搬性に優れた柔軟なコンセプトに基づいて構成されていることから、タイプの異なる航空機ファスナーや外板材料にも適用が可能です。定評のある OmniScan データ収集ユニットをベースとすることにより、他の超音波や非破壊検査法をも柔軟に取り込むことができます(MXをベースとすることによって、EC/ECA/Bond検査のモジュール化も可能です)。
注: 上に詳しく説明したスキャニングシステムは特定のアプリケーションの変数を想定して設計されています。このAFISシステムのお客様のアプリケーションのニーズへの適合性についての詳細は、 eto@olympusndt.com へお問い合わせください。