背景
従来手法の送受信分割縦波(TRL: Transmit-Receive Longitudinal)プローブは、異種金属溶接部および音の通りにくい材料の検査に有用です。デュアル・マトリックス・アレイ(DMA)プローブは、TRLプローブの利点と超音波フェーズドアレイ技術の利点を兼ね備えており、超音波ビームの電子制御によるステアリング走査、スキューイング(首振り走査)、およびフォーカス調節を可能にします。
課題
異種金属およびオーステナイト系の溶接部を超音波で検査するのは非常に困難です。特に検査を片側だけから実行する必要がある場合は、溶接材の異方性により超音波ビームが散乱するため難しくなります。
TRLプローブは基本的には、送信用振動子(エミッター)と受信用振動子(レシーバー)が音響隔離壁によって分離される二振動子型探触子です。斜角およびフォーカスの加工により、一点に絞って擬似的にフォーカスを合わせます。このプローブはウエッジの表面エコーに起因するデッド・ゾーンがなく、散乱によるノイズ信号を低減し、高い感度での使用を可能にします。
しかし、TRLプローブでは屈折角や擬似フォーカスが固定されているので、検査現場では多様な対象物に対応するために、複数のプローブが必要になる場合があります。
解決策
デュアル・マトリックス・アレイ(DMA)プローブは、このテクノロジーを論理的に進化させたものです。2個のマトリックス・アレイで構成されており、ビームは通常30°~70°(縦波LWまたは横波SW)でスイープでき、また任意の深さで擬似フォーカス調整が可能です。任意の開口部サイズを選択することによってビームのサイズを変更でき、さらにビームの水平方向走査(プローブのスキューイングと同様の効果)で斜めの欠陥を探傷することができます。デュアル・マトリックス・アレイは、超音波フェーズドアレイ探傷器のOmniScan MX/MX2とそのイメージング機能で、電子的に任意構成適応ができるため、TRLプローブよりも柔軟性が高くなります。
機器
検査に使用する機器は、以下の構成です。
超音波フェーズドアレイ探傷器 x 1: | OmniScan MXまたはMX2 32/128 PRモジュール |
デュアル・マトリックス・アレイ(DMA)プローブ x 1: | 1.5DM7X4-19X12-A17-P-2.5-OM-DUAL28 |
フラット・ウエッジ x 1: | SA17-DN55L0-IHC |
ウエッジを装着したデュアル・マトリックス・アレイ(DMA)プローブ
デュアル・マトリックス・アレイの概略図
このデュアル・マトリックス・アレイ(DMA)プローブは、ウエッジに搭載された1.5DM7X4-19X12-A17-P-2.5-OM-DUAL28です。19mm x 12mm(各マトリックス)の全表面がアクティブな28個の振動素子で構成されており、振動素子はそれぞれ送信および受信が可能です。
OmniScan MX 32:128 PRは、-15°、0°、15°の異なるスキュー角(首振り角)を持つ3種類のセクターにプログラムされ、それぞれ30°~70°縦波のビーム・ステアリングとなっています。すべてのビームは管の底面(内径側)にフォーカスするように設定されています。
結果
下の写真は、管と管のステンレス鋼溶接部の結果を示しています。デュアル・マトリックス・アレイは、30°~70°縦波とスキュー0°のセクター・スキャンでプログラムされています。1.1インチ(長さ) x 0.3インチ(高さ)の底面クラックが明確に検出されています。
下の写真は、管と管のステンレス鋼溶接部の結果を示しています。デュアル・マトリックス・アレイは、3種類のスキュー角(左から:-15、0、15度)による30°~70°縦波のセクタースキャンがプログラムされています。このケースでは、1.5インチ(長さ) x 0.4インチ(高さ)の底面クラックは、-15度のスキュー角でより適切に検出されます。この構成では、クラックの先端さえも見えます。
結論
デュアル・マトリックス・アレイ(DMA)プローブは、ノイズの多い材料の検査時に有効です。OmniScanのようなポータブルタイプの超音波フェーズドアレイ探傷器で使用する場合、DMAプローブのほうが従来手法のTRLプローブよりも柔軟性が高くなります。