要約
多くの非破壊検査規格では、所定の要件がみたされる限りにおいて、すでに定められている非破壊検査法から他の非破壊検査法への置き換えを認めています。この流れに沿った最近のトレンドは、放射線透過試験(RT)を完全に超音波試験へ置き換えることです。この置き換えによって大きなメリットが得られるケースが多いのですが、すべてのケースが常に実用的であるとは限りません。置き換えのためには時間的な投資やトレーニング、手続き、エンドユーザーからの承認、新装置への投資、要員育成などの検討が必要となるからです。環境条件がフィットすれば恒久的な代替法として置き換えを実施されることもあり、超音波フェーズドアレイ検査法(PA)の完全実施に至るまでの、短期的な相互補完を目的として実施されることもあります。
はじめに
検査技術を完全に置き換えることが現実的ではない場合であっても、放射線透過試験を最終的な承認取得のための方法として残しておきながら、検査品質向上とプロセス効率化の手段として手動の超音波フェーズドアレイ検査を適用するシナリオが何通りも考えられます。現在では、コンパクトで低価格、かつ操作性に優れた超音波フェーズドアレイ探傷器が容易に手に入るので、放射線透過試験プロセスを補足する手段として極めて有効です。
放射線透過試験(RT)プロセスに超音波フェーズドアレイ(PA)を適用できる主なアプリケーション
- パス間の厚い溶接肉盛り
- 最初の溶接肉盛内の欠陥の有無を検証し、材料を追加して溶接して良いか否かを判定する(放射線透過試験のように部品を移動したり、周囲の部材を除く必要がありません)。高価な基材や溶加材、被覆材を使用する用途、肉厚が非常に大きな耐圧容器の製造などで特に有効な手段です。
- 放射線フィルムが欠陥の疑いを示した部位の検証(欠陥のタイプと範囲)
- 超音波フェーズドアレイの表示・画像処理機能は欠陥(特に解釈の困難な欠陥)の特徴を把握する補助ツールとして有効です。
- システムに組み込まれた部材(バルブなど)の幾何学的特徴の検証(放射線透過試験ではフィルムの位置設定が難しく、誤判断の原因になります)
- 放射線透過試験に基づいて実施した修理の検証
- 放射線透過試験を用いて修理箇所の最終的な合否判定を行う前のクイック・チェック法として超音波フェーズドアレイを適用できます。特に、位置移動が難しい大型コンポーネントに有効な手段です。
- 放射線透過試験で検出された欠陥の検証と高さ判別
- 放射線透過試験の検査区画からコンポーネントを移動させずに深さと奥行き方向の広がりをすばやく把握することができます。
- 監査用データの保存
- 手動セクタースキャンを含む何種類もの画像を保存しておくことが可能なため、このデータからA-スキャンを再生して、不連続部を恒久的な体積記録として示すことができます。
超音波フェーズドアレイが強力な補完技術である理由
- 深さ、奥行き方向の広がりを正確に把握
- 角度を柔軟にプログラミング可能(広い検出範囲をカバー)
- 生のA-スキャンを含む画像データ
- 可搬性に優れ使用法も簡単であることから、アクセスが難しい場所やフィルムの配置が難しい狭い場所での使用が可能
- 危険性が無く、化学薬品も不使用:検査対象物の移動や周囲の作業を制限する必要が無い
- エンコーダー付き超音波フェーズドアレイへのアップグレードが可能(放射線透過試験への代替え規則への適合のため)
- 超音波探傷(UT)と同じ原理であるため、検査員の再教育が容易
- 検査規格、ガイダンス、トレーニング方法が確立されている
代表的な装置と検査要件
- 超音波フェーズドアレイデータ収集ユニット(OmniScan SXまたはEPOCH 1000i)
- フェーズドアレイプローブとウエッジ(検査対象の材料に合わせて選択)
- 超音波接触媒質
- 校正テストブロック:対象とする材料、感度、TCGその他の校正要件に合わせて選択
結論
放射線透過試験法から超音波フェーズドアレイへの置き換えが産業界のトレンドになり、検査規格に取り入れられた実施例も増えてきています。操作性と低価格、可搬性を兼ね備えた最新の超音波フェーズドアレイ探傷器とソフトウェアがこの傾向をさらに加速させています。ただし、事例によっては直ちに測定方法を切り替えるのが難しい、あるいは不可能な場合もあり、実施方法の完全な切り替えに時間を要することもあります。超音波フェーズドアレイ探傷器の最近のトレンドとしては、放射線透過試験法の部分的置き換えや補完法としての利用が増えており、これによって多くのメリットが得られます。