はじめに
鉄鋼に対する世界の需要が常に増加する一方で、原材料、エネルギー、輸送に関わる費用も上昇し続けています。従来型のプラントは大規模な資本の投入が必要であることに加えて、多大なエネルギー費用が伴います。一貫生産する製鉄プラントはコークス炉と焼結プラントの両方を備えていますが、いずれも高価であり、二酸化炭素を大量に排出するため環境に悪影響を及ぼします。
鉄鉱石を低温度で精製する方法の一つである直接還元鉄(DRI)はエネルギー消費量が少なく、プラント規模も小さくて済むという特徴があります。DRIプロセスは天然ガスを使用して鉄鉱石を還元することにより、ほぼ銑鉄に匹敵する鉄濃度(90~94%)を持つ「海綿鉄」を作り出します。海綿鉄は小規模工場で使用する電気炉へ供給する原料として優れています。DRIプラントは経済性に優れ、環境に優しい純鉄の安定供給法として関心が高まっていますが、特に安価なシェールガスを利用できる目処が立ったことから注目を集めています。
X線回折による相同定が重要である理由
DRIプロセスに供給する原料鉄鉱石の鉱物学的組成を知ることは、プロセスのコスト管理と最適運転を左右する重要な要素です。受け入れる原材料の鉱物組成を知ることは、次のような理由でDRIプロセスにとって有益です:
- 原材料に関わる費用は鉱石のグレードに依存します。鉱石の受け入れ時にスクリーニングできれば、原材料が低グレード鉱石なのか高グレード鉱石なのかを判別することができます。
- 鉱石の鉱物学的特性を知ることは次のような最適プロセス条件(収率の最大化を図りながら製造コストを管理するための温度、化学的混合比など)の選択に役立ちます。
- グレード選別を的確にコントロールして一貫性のある鉱物組成を保つことは、プラント操業条件の安定化に直結します。
DRIに適した鉱物組成の知識は原材料コストや処理コスト、さらには最終製品の価格に影響を及ぼします。X線回折法(XRD)を使用すれば、重要な鉄鉱石(高グレード赤鉄鉱、低グレード磁鉄鉱、針鉄鉱)を同定し、定量することができます。さらに、プロセス操作を複雑化する原因となる脈石鉱物(アルミナ、シリカ、ギブサイト、石英、カオリナイトなど)を同定することも可能です。
次に示すのはDRI操作へ受け入れる原材料のディフラクトグラムです。それぞれは赤鉄鉱と磁鉄鉱の好ましい相の回折パターンを示しており、観測されたピークはこれら二つの鉱物相から予期される適正な位置に現れています。
鉱石が酸化物から完全な元素鉄へ還元されたか否かを確認するには、処理過程のモニタリングが重要です。反応が不完全であると収率が低下するので、経済的な損失につながります。逆に処理が必要以上に長く続くと、余分なエネルギーと燃料を消費することになり、こちらも経済的損失を招きます。
X線回折分析は原料鉱石や処理段階での鉱物の同定に使用できる信頼性の高い手法です。現在のところ、DRIプラントは湿式化学分析を使用していますが、鉱物相の同定についてはあまり正確ではありません。そのため、X線回折分析のために試料を外部のラボに送ることもあります。しかし、この方法は時間がかかり、かつ高くつきます。オリンパスは、分析を現場で実行できるポータブルX線回折装置を提供しています。試料調製が簡単で分析時間も短いことから多数の試料分析が可能となり、原料から処理過程までを完全にモニタリングすることができます。さらに、そのデータをもとに現場で即時に分析判断を下すことができます。
結論オリンパスX線回折装置はNASAの火星探査プログラム(Mars Rover)で開発された特許技術を使用しています。この技術を応用することにより、品質保証とプロセスコントロールのためのDRI原材料分析を現場で迅速に実施できるようになりました。
利点:
| ポータブルX線回折装置 TERRA |