はじめに
原油や関連製品が滞りなく円滑に流れてくれること、これは工業化社会にとって極めて重要な意味を持ちます。パイプラインが長い期間稼働していると、内部に流れを妨げる物質が蓄積し、原油のスムーズな流れを阻害するようになります。オリンパスのX線回折装置TERRAを使用すれば、流れを阻害する原因となるスケールや腐食を識別することができます。この情報は、適切な対処プランを策定する上で非常に役立ちます。
腐食の同定
油井やパイプラインにおける腐食は、主として「スケールの付着」(パイプやバルブ内面での異物の蓄積)、または、「錆の進行」(パイプやバルブ自体の摩滅)という形態で現れます。腐食性残留物を分析すれば、問題に関わる特定の相/化合物を同定することができます。腐食に関連して一般的に問題となる相/化合物の例として、磁鉄鉱、バライト、炭酸カルシウム、石膏などを挙げることができます。ここで示した例を含む多くの化合物は、X線回折装置で迅速かつ簡単に同定が可能です。
腐食の相/化合物が何であるかが判明すれば、その相/化合物の形成を促進する条件(たとえば、溶存元素混合、温度、pH、バクテリアの存在と酸素化)を知る手掛かりとなります。この情報を利用して、腐食を改善、または腐食の進行を予防するにはどうしたら良いかを決定することができます。
オリンパスのポータブルX線回折装置TERRAは堅牢に設計されているので、直接現地に持ち込んで、現場で実際に発生している腐食の形態を明らかにすることができます。TERRAにはNASAとオリンパスが特許を取得した技術が盛り込まれており、この技術を活用してX線回折分析をおこないます。たとえば、試料の取り扱いのために独自のシステムを採用しており、これを用いて構造(鉱物学/相)情報と大まかな元素(化学)情報を取得します。この情報は、オペレーターが試料を同定する助けとなります(その際、専用アプリケーションデータベースを参照します)。
TERRAを使用して、炭素鋼配管、油井、都市水道水周り、沖合や外洋施設で発生する腐食、硫黄還元バクテリアが引き起こす腐食など、様々な腐食化合物/相を同定することができます。使用法が簡単なTERRAは、腐食残渣の迅速かつ正確な同定のために最適なX線回折装置です。
TERRAを使用した迅速な同定
- 炭素鋼配管:磁鉄鉱(Fe₃O₄)、針鉄鉱(α-FeO(OH))、水酸化鉄(Fe₅O₇(OH)x4H₂O)、鱗鉄鉱(γ-FeOOH)、フェロキシハイト(FeO(OH))、赤金鉱(FeO(OH))、ヘマタイト(Fe₂O₃)、ウスタイト(FeO)
- 硫黄還元バクテリア(SRB):磁硫鉄鉱と黄鉄鉱
- 沖合/外洋:赤金鉱(FeO(OH))-特に塩化物存在下
- 油井:硫化バリウム(バライト)、炭酸カルシウム(方解石)、硫化カルシウム(硬石膏、石膏)、硫化ストロンチウム(天青石)、酸化鉄/炭酸塩/水酸化物、硫化鉛、硫化亜鉛
- 都市水道:石英、曹長石、石膏、亜塩素酸塩、イライト、緑閃石、微斜長石、ストルバイト、鉄ミョウバン石、鉄沈積物、炭酸塩
オリンパスX線回折装置TERRAを用いる腐食検査分析
TERRAを使用して、様々なパイプライン腐食物質を含む4件の試料を分析しました。TERRAを適用するための試料調製は簡単でした。入手した試料は粉末状だったため、それ以上の特段の調製を必要としませんでした。粉砕などの処理を必要とする試料が含まれていたとしても、TERRAには現場で試料調製をおこなうためのキットが標準装備されているため、簡単に処理することができます(図1)。120-140メッシュのフルイに通して試料の粒度を揃えてから、TERRAの試料チャンバ-(特許取得)に入れます(図2)。
それぞれの試料を約15分かけて分析し、オリンパスのX線回折分析ソフトウェアXPowderを適用して解析しました。鉱物の同定をおこなった後、さらに相対強度比法を用いて定量しました。4試料から得られた結果を図3a-dに示します。これらのグラフは、それぞれの試料の回折ピークを表示しています。オリンパスのTERRA Smart Senseを使用して出力すれば、標準出力よりもさらに明瞭で解像度の高いピークが得られます。Smart Senseは、TERRAで使用できる独自機能の1つであり、ピークとバックグラウンドの対比を最適化してくれます。Smart SenseはX線回折実験には直接関係のない光子がセンサーに入射するのを防止する働きをしてくれます。センサーはエネルギーと位置の両方に感応するので、本来の光軸から外れた光子を排除することによって感度が向上します(図4)。
図1A | 図1B | 図1C | 図1D | 図2:TERRAの試料チャンバ- |
図 1: 試料調製キットの構成要素。
1A、1Bは現場で試料を粉砕する方法を示しています。乳鉢と乳棒(1C)を使用して粒子サイズを小さくし、得られた粉末をふるい(1D)に通して粒径を揃えます。
TERRAの試料分析データ
4種類の試料すべての分析結果を下の図に示します(相の特徴を示す指紋領域をグラフ上に重ね書きしてあります)。TERRAによる試料データ解析と共に、カスタムライブラリー検索も可能です。
あられ石 方解石 曹長石 石英
化合物/鉱物 | スペクトルマーカー表示色 | 結果=% | 化学式 |
石英 | 緑 | 49.1 | SiO2 |
あられ石 | 赤 | 36.9 | CaCO3 (斜方晶系) |
方解石 | 青 | 2.3 | CaCO3 (三方晶系) |
曹長石 | 黄 | 11.7 | NaAlSi3O8 またはNa1.0–0.9Ca0.0 |
石膏 石英
化合物/鉱物 | スペクトルマーカー表示色 | 結果=% | 化学式 |
石英 | 赤 | 5.2 | SiO2 |
石膏 | 緑 | 94.8 | CaSO4·2H2O |
磁鉄鉱 石英 方解石 苦灰石
重晶石
化合物/鉱物 | スペクトルマーカー表示色 | 結果=% | 化学式 |
石英 | 赤 | 30.6 | SiO2 |
磁鉄鉱 | 緑 | 38.2 | Fe23O4 |
方解石 | 黄色 | 16.6 | CaCO3 |
苦灰石 | 青 | 14.6 | CaMg(CO3)2 |
化合物/鉱物 | スペクトルマーカー表示色 | 結果=% | 化学式 |
重晶石 | 緑 | 100 | BaSO4 |
結論
TERRAを用いれば、腐食成分の同定は簡単明瞭です。すでに内容が確認されているすべての相はTERRAで測定可能な範囲内にあるので、この方法を応用して簡単かつ高精度に相を同定することができます。ポータブルX線回折装置TERRAは腐食検査を現場で実施するための理想的なツールです。