必要な物質と不要な物質を素早く適切に選別することは、スクラップをリサイクルする業界では常に求められている課題です。敷地内のスクラップヤードに搬入されたリサイクル材料の品種や品質を把握することにより、適正な価格を設定することができます。また、適切に選別されたリサイクル材料を提供できれば、顧客は時間を節約でき、リサイクル業者は大きな利益獲得に繋がります。 選別された高品質の材料により、高品質の最終製品を作り出すことができます。顧客である製造業者、加工業者、精錬業者が、必要な材料を必要な純度で提供されていると確信できれば、顧客とリサイクル業者の双方にとって有利な状況を実現することができます。さらに、顧客からの信頼を得ることにより、長期にわたり良好な関係を築くことが可能となります。 リサイクル材料の選別を「研削機にかけたときのスパークの色を見て」行っていた時代がありましたが、現在、選別方法は大きく進歩しています。今日では、大型の自動破砕施設および小さなドライブイン式のストックヤードも、技術的に進歩した選別処理場へと移行しています。 従来の一般的なリサイクル素材の選別手法は、渦電流選別装置(磁石を使用して鉄類と非鉄金属とを分類)や、発光分光分析装置(OES、金属試料へのアーク放電/スパーク放電などの励起放電により発生する発光スペクトルを分光し、その波長から元素を特定する)でした。 しかし、蛍光X線分析法(XRF)は、高速かつ高精度に、より難度の高い合金品種の検出および選別を行うことができる比較的容易な方法です。的確な選別により、敷地内に搬入された金属の価格を適正に設定でき、より高純度のリサイクル素材製品を顧客に提供することができます。 過去10年くらいの間に蛍光X線分析装置は小型化され、高品質な携帯型のハンドヘルド蛍光X線分析計が製品化されました。一方、蛍光X線分析法は、たとえば破砕事業などで、大量の資材を分別するオンライン自動分別システムにも利用されています。このように、蛍光X線分析法による選別装置は、リサイクル業者の規模に関係なく活用されています。 |
蛍光X線分析法(XRF)の原理
鉄から、銅、ニッケル、タングステンまでのほとんど全ての元素には、それぞれ固有で既知のX線シグネチャーがあります。X線やガンマ線が元素によって吸収される際、元素は蛍光X線を発したりエネルギーを放出したりします。原子内殻電子へのX線照射は、X線シグネチャー(光電効果および蛍光X線)を発生し、これが「検出」されて測定結果となります。
蛍光X線分析装置は、原子内にX線を入射して励起し、試料に含まれるほとんどの元素から放出される蛍光X線を検出します。蛍光X線分析装置は、検出した結果を基に分析し、試料を構成する各成分元素の量をパーセントで示します。また、ほとんどの蛍光X線分析装置は、成分分析の結果と品種ライブラリーとの比較を基に品種を判定します。
蛍光X線分析装置は複数の元素を同時に検出することができるため、ステンレス鋼やアルミニウムの品種の選別や粉砕されたガラスの選別に最適です。
合金の系列ではなく、品種を選別
蛍光X線分析装置は、従来ステンレス鋼を選別したり、非鉄合金の品種を分類したりするために使用されてきました。そして、技術の進歩により、さらに高度な検出へと移行しています。
ステンレス鋼の品種304と品種316についてみてみます。外観は同じで質量もほとんど同じですが、どちらも磁性体ではありません。蛍光X線分析装置は、316に含まれる約2%のモリブデンを検出できるため、304と316を選別することができます。モリブデンは高価な元素であるため、316は304よりも価格が高くなります。
ステンレス鋼の品種304と品種347には、クロムとニッケルが含まれていますが、ニオブの含有量が異なります。蛍光X線分析装置は、各元素の濃度を検出でき、わずか数秒で合金品種を判別することができます。
ハンドヘルド蛍光X線分析計では、軽合金の場合は、いままで一般的に合金系列全体の選別に制限がありました(たとえば、2000系から7000系までのアルミニウム合金)。発光分光分析装置(OES)は従来、アルミニウム合金の選別に最適な、持ち運び可能なソリューションでした。しかし近年、ハンドヘルド蛍光X線分析計の技術が進歩し、系列内のさまざまな品種の分別のために使用可能となっています。
一般的な展伸用アルミニウム合金3003は、マンガン(Mn)含有量を基に判定できます。ハンドヘルド蛍光X線分析計では、以前から、3003系を他のAl合金系列から容易に選別できました。しかし、最新の高性能なハンドヘルド蛍光X線分析計では、軽元素のマグネシウム(Mg)の含有量が少量であっても高精度に分析できるようになったため、Mg含有量を基に3004および3005から3003を選別することができます。
品種は、一つの元素によってのみ分類できるものではありません。アルミニウムの品種6061と品種6063は、同一の11種類の元素を含有し、他の元素は含有していません。最新の蛍光X線分析計では、11種類の元素をそれぞれ短時間で測定し、測定された濃度を基に、6061合金と6063合金を識別することができます。
合金品種を選別および分類できること、トランプ残留物や有害成分に対して物質を分析できることは、付加価値、顧客満足、最終的には利益を生み出すことに繋がります。
難しい素材
オンライン蛍光X線分析システムでは、リサイクル素材の種類を自動分類します。他のテクノロジーでは簡単ではありません。
需要の多い、ミートボール(鉄芯に巻き付けられた銅線から成る電気モータの交流電源)、ガラス、最高品質の非鉄金属(たとえば、ステンレス鋼や特定のアルミニウム合金)など、典型的な3種類のリサイクル素材を分類できる高速選別システムは、蛍光X線分析システムだけです。
ミートボールの選別
破砕されたスクラップの流れから、手作業で、あるいは渦電流選別装置や発光分光分析装置(OES)を使って、ミートボールを効率的に分類することはできません。渦電流は磁力を発生させ、ミートボールに含まれる鉄は他の鉄合金のスクラップの破片とともに磁石に引きつけられます。スパーク放電発光分析は、ミートボール内のすべての金属を検出するには焦点が狭すぎるため、複数回の測定が必要です。現在の手作業による分別は、時間と人手がかかりミスも犯しやすくなります。
しかし、自動化された蛍光X線分析システムを使用すれば、元素レベルで分類し、広い測定領域を同時にカバーすることができます。ミートボールに含まれる銅を1回の高速通過ですぐに検出でき、迅速な自動選別を実現できます。
ガラスの選別
カレットをリサイクルする場合、調理器具に使用されるようなセラミックガラスを一般的なガラスと混ぜ合わせてはいけません。セラミックガラスは、瓶や容器のガラス(つまり"普通のガラス")とは、融解温度が高い場合や異なる場合があります。新たにガラスを作る際、セラミックガラスが混じっていると適切に融解しないために、新しいガラスに介在物や傷が生じます。融解温度の違いは、高価な製造装置が損傷するなど、ガラスの製造工程での問題の原因となることもあります。
CRT、クリスタルゴブレット、シャンデリアなど鉛を含んだガラスも、セラミックガラスと同様の問題を引き起こします。
蛍光X線分析装置は、短時間かつ正確にガラスの種類を分別できます。一般的なガラスからセラミックガラスおよび鉛ガラスを分別できるという信頼を得ることで、顧客との関係を長い間維持することができます。
色付きガラスは、金属で色を付けています。混ぜる金属がコバルトであれば青、鉄だと緑、硫黄/炭素だとアンバー/茶色の色が付いたガラスになります。再生ガラスには再生前のガラスの色が付くので、供給したガラスカレットの分別が的確にできていれば、最終製品には混ぜる金属に対応した固有の色が付きます。
ガラス選別の大半は、青、緑、アンバー、透明といった色によって視覚的に行われます。しかし、視覚選別は、時間がかかりミスを犯しやすいものです。蛍光X線分析装置では、破砕ガラスの流れに透明なものと青色のものが混ざっている場合はコバルトを検出できるように調整したり、他の金属を検出して他の色のものを分別できるように調整したりすることができます。複数の蛍光X線分析システムで、色付きガラスを透明なガラスから分別し、青色のガラスを緑色とアンバー色のガラスから分別して、最後に緑色のガラスをアンバー色のガラスから分別するという手法が採られています。
アルミニウムの選別
簡単な質量検査や磁気検査を行って他の金属からアルミニウムを分別できますが、アルミニウムの種類の違いの判定は困難です。アルミニウム合金はすべて、銀色か灰色で、軽量です。たとえば、7000系のアルミニウム合金は6000系のものと同じように見えます。現在、再資源業者は、7000系合金と6000系合金を分別するための自動化された方法を求めています。
蛍光X線分析装置では、7000系と6000系だけでなく他の系列のアルミニウム合金、さらにこれらの系列の品種もすばやく選別することができます。
リサイクル事業での蛍光X線分析装置の使用方法
蛍光X線分析装置は、リサイクル施設の規模の大きさに関係なく使用でき、さまざまなスクラップの選別ニーズに対応します。
自動車の破砕設備の運用では、蛍光X線分析技術を既存の選別機に統合すると詳細な分別が可能になります。つまり、渦電流ヘッドの後に直列に追加された蛍光X線分析装置により、必要な(あるいは不要な)鉄合金のスクラップを数ミリ秒で検出し、さらに分別します。
また、合金分析用のハンドヘルド蛍光X線分析計は、破砕場へ簡単に持ち込むことができ、その場で物質の種類を特定できるため、競合他社よりも速く高精度に値段を決めることができます。
蛍光X線分析装置による分別や元素の検出方法を、ユーザーが設定できます。蛍光X線分析計システムでは、スクラップの流れが変化した場合でも、新しいニーズに適合するように設定を変更できます。たとえば、午前中、低合金鋼に含まれる有害性のある銅を検出するために使用した蛍光X線分析計を、午後はアルミニウム合金の詳細な選別に使用することができます。
現在、ハンドヘルド蛍光X線分析計では、マグネシウムからウランまでの元素を優れた感度で検出することができます。