要約
多くの非破壊検査規格では、所定の要件がみたされる限りにおいて、すでに定められている非破壊検査法を他の非破壊検査法へ置き換えることを認めています。経費削減その他のプロセス改善を目的として、これまで規格に記載されていなかった検査法が現在再評価されつつあります。このような代替法の一つとして、これまで放射線透過試験(RT)が主流であった検査を超音波法で置き換える試みの評価が高くなり、実施例も着実に増えつつあります。
はじめに
放射線と超音波は相互に補完的な機能を持つ非破壊検査技術です。両者とも、溶接部や構成機器における割れ、融合不良、ポロシティーなどの欠陥を体積検査できる方法です。どちらを優先させるかは、外部のプロセス的な判断や、特定の試験への適合性に係わる小さな要因によってほぼ決まります。近年、現場ばかりではなくASMEやAPIなどの規格策定組織においても、これまで放射線が定番であった領域で超音波を使用する機運が高まっています。大部分の規格では超音波法を指定していませんが、プロセスに有効な代替法を探索する試みの中では超音波フェーズドアレイ(PA)が最も有力な選択肢となっています。また、TOFD(伝播時間回折法)と組み合わせて使用する例も多く見られます。その理由は、最新のデータ収集ユニットとスキャンを超音波フェーズドアレイとTOFDの両方に適用することができるからです。規格に基づいたこれまでの検査において、規格に記載の事例や付則に準拠した手順で実施されていましたが、産業界における大量の実例や成功例が規格の本文自体に盛り込まれるようになりました。2010年以降のASME Sec.V Art 4にその例を見ることができます。最新の超音波フェーズドアレイ探傷器は非常に可搬性に優れ、安価になり、かつ使いやすくなっていることから、従来よりもはるかに簡単に放射線透過試験を超音波フェーズドアレイ法で置き換えることができます。
超音波フェーズドアレイ検査(PA)の代表的な利点: 放射線透過試験(RT)との比較
- 高い検出確率(POD):特に、割れや溶融不良 において。
- 超音波フェーズドアレイ法は、放射線透過試験法よりも平面状に広がったきずの検出に適していることが、多くの研究で示されています。
- 正確な欠陥高さサイズ判別:ECA(Engineering Critical Assessment)を使用して不合格品/修理品を減らすことが可能です。
- 欠陥高さ測定ができる超音波フェーズドアレイ法を用いることにより、体積を視点に入れたきずの重大度判定が可能です(これまでは、きずの種類と長さのみの判定)
- 放射線、危険性、認可取得、特殊技術要員などの問題がありません。
- 立ち入り禁止区域を設定する必要がないため、超音波フェーズドアレイ検査の周りで通常の作業が実施可能です。
- フィルムを使用する放射線透過試験と比較して、化学薬品の使用や廃棄物、フィルムデータの保管場所などの問題が起こりません。
- リアルタイムで解析可能です(その場で評価を下して溶接技術者にフィードバック可能)。
- フィルム方式の放射線透過試験と比較して、電子データでのセットアップと検査報告書の作成が可能です。
放射線透過試験法を超音波フェーズドアレイ法で置き換えた規格例
- ASME Code Case 2235
- ASME Code Case 179
- ASME Code Case 168
- ASME Code Case N-659
- ASME Code N-713
- API 620/650 App. U
- ASME Sec. V Mandatory Appendixes
代表的な探傷器と検査要件
- スキャンデータをすべて保存できる、エンコーディング機能を備えたデータ収集ユニット(OmniScanシリーズ、またはFOCUSシリーズ)
- 検査戦略と重要パラメーターを示すスキャンプランと測定手順
- 溶接部または構成機器を繰り返してスキャン可能な産業用スキャナー(エンコーダー、セミ/フルオート)
- 溶接箇所の数、パイプ直径、その他のアプリケーション変数を基に選択
- 成果データ
- データ収集ユニット、または事後解析ソフトウェア(OmniPCまたはTomoView)で解析を実行
- 探傷器、測定手順、オペレーターと検査プロセスの性能実証
- 必要に応じて代替合否基準を採用
- プローブ、ウエッジ、接触媒質、その他のアクセサリー
- 検査員の適切なトレーニングと認定
結論
放射線透過試験法(RT)の置き換えが産業界のトレンドになり、規格に取り入れられた実施例も増えています。操作性と低価格、可搬性を兼ね備えた最新の超音波フェーズドアレイ探傷器(PA)とソフトウェアがこの傾向をさらに加速しています。このトレンドが持続する主な理由として、プロセスコストと時間の節約、検査員と周囲の作業員の安全性向上、さらに、代替合否基準の採用によって不合格/修理の頻度が減ったことなどが挙げられます。