はじめに
鉱石の鉱物組成を知ることは処理工程の計画立案のためばかりではなく、処理のために必要なエネルギーや化学薬品の使用を管理するという面からも非常に重要です。鉱物を含む岩石が搬入されたときに、その鉱物的組成をはっきりと同定できることは非常に意味のあることであり、商品の種類や場所にもよりますが、次のようなメリットが得られます。
- 処理回路切り分けのトラッキング: 酸化物ならば浸出パッドへ、硫化物ならば浮選回路へ
- 鉱石中の石英含量をモニタリングして硬さを判別し、破砕のための電力消費を最適化する
- タルクと CaCO3 を定量的に把握して酸の消費量を予測するとともに、化学薬品消費量を監視してプロセスの経済性を向上させる
- 粘土質とカルサイト含量をモニタリングして鉱石の持つ透水性を評価し、浸出パッドでの水分透過がどの程度であるかを予測する
オリンパスのX線回折
鉱物冶金アプリケーションでは鉱物の迅速同定と定量が重要です。オリンパスは2機種の革新的XRD分析計(ポータブル型TERRAとベンチトップ型BTX II)を投入してこのニーズに応えています。これらの装置を使用することにより、鉱物の各種処理や高温冶金法、原鉱石における重要な相の迅速測定が可能になります。これらの装置がもたらす鉱物学的情報はプロセス戦略の最適化に役立ち、企業にとっては時間と経費の節約につながります。
オリンパスXRD分析計は、NASAの火星探索(Mars Rover)プログラムのために開発された特許技術を応用しています。これらの分析計を各種鉱物(金、ニッケル、鉄鉱石、銅、石炭、アルミニウム、ウラン、鉱物砂)の処理のために応用すると、次のような効果が得られます。
- サンプルの準備が容易。ラボの専門家でなくても操作ができ、短時間で解析結果が得られる
- 大規模な分析計を完備したラボに見劣りしない結果が現場でのXRD解析で得られる
- XRF(蛍光X線分析)の定性分析機能も有り
- 経済的な装置価格と低い運用コスト
ケーススタディ: 金
金鉱石の選鉱プロセスを最適化するためには、金鉱石の鉱物学的知識を持つことが重要です。共存する鉱物(石英、タルク、カルサイト、炭酸カルシウム、微細/膨潤粘土、磁硫鉄鉱、黄鉄鉱、石墨、その他の鉱物)の存在量が金の回収率に影響を与えるからです。オリンパスのXRD分析装置はこれらの鉱物の存在の有無と濃度を迅速に測定し、工場管理者が素早くシステムを微調整する助けとなります。米国(ネバダ州)のある金鉱山では、浸出パッド材料の透過率と吸水率評価のためにオリンパスのTERRA(ポータブルXRD分析計)を使用しています。浸出液の透過率が低く、吸収率が高いと(高膨潤粘土の存在量が多く、石英含量が少ないことを意味します)、透水が妨げられて金の浸出が低速かつ不完全になります。この事例では、乾燥した粉末状浸出パッドサンプル(120μm粉末、<15mg)の測定にTERRAを用いて浸出ポテンシャルを評価し、サンプルを分類しています。この方法により、相対的な粘土と石英含有量を基準として、簡単にかつ迅速にグループ分け(優、良、不可)することができます。
サンプル | ||||||
鉱物 | 不可 1 | 不可 5 | 良 19 | 良 21 | 優 4 | 優 5 |
石英 | 25.4 | 61.2 | 56.5 | 83.3 | 91.1 | 83.7 |
粘土 | 46.3 | 9.9 | 5.2 | 1.6 | n/a | n/a |
カルサイト | 3.0 | 16.9 | n/a | n/a | 8.9 | 2.6 |
白雲母 | 3.2 | 6.0 | 5.6 | 8.3 | n/a | 8.2 |
その他 | 22.1 | 6.3 | 32.7 | 7.0 | n/a | 4.9 |
ケーススタディ:銅
1つの鉱体に含まれる酸化銅鉱石と硫化銅鉱石を弁別することを目的としてXRDが一般的に使用されています。 この分析結果は、処理経路(酸化物を酸浸出回路へ、硫化物は浮選回路へ)を振り分けるための先行情報として役立ちます。浸出回路の酸吸収鉱物(CaCO3など)の量によって消費する酸の量も変わりますから、その量を定量的に把握できるか否かは、処理コストに直接的な影響を及ぼします。浮選回路では、硫酸銅鉱石の濃縮が進むにつれて、ある種の鉱物も浮上してしまうことがあります。そうしたものにより汚染されると、最終製品の品位が著しく低下する可能性があります。このような脈石鉱物についてあらかじめ情報があれば、冶金担当の管理者は試薬を添加して銅鉱物から分離することができます。オリンパスXRD分析装置を適用すれば正確な鉱物組成情報を事前に入手できるので、前もって試薬の使用法を計画することができます。したがって、この方法はプロセス条件の合理化と経費削減に大きく寄与します。
ケーススタディ: 鉄
縞状鉄鉱床は主として磁鉄鉱から構成されますが、部分的に酸化鉄類(針鉄鉱、褐鉄鉱、赤鉄鉱)も含みます。
これらの鉱物はいずれも処理法と鉱物価値が異なりますから、鉱物種を適切に判別して分離してから処理することが重要です。
高品位の赤鉄鉱であれば、破砕してスクリーニングするだけで製鋼所へ販売することができますが、磁鉄鉱の場合は二次処理を行ってからでなければ販売することができません。
針鉄鉱と褐鉄鉱は処理が難しく、かつ、残留物が機械を汚染する恐れがあるため、販売に適しません。
磁性を測定すれば磁鉄鉱が含まれているか否かを判断することは可能ですが、この方法は定量性に欠けることに加えて赤鉄鉱や針鉄鉱を識別することができません。視覚的な方法で赤鉄鉱や磁鉄鉱の存在を判別しようとする処理方式も何種類か存在します。しかし、これらの方法は不正確で間違いを起こしやすいというのが実情です。オリンパスのXRD分析装置ならば、鉱物の品位を問わずに、脈石鉱物も含めて短時間(5分以内)で鉱物相の同定と定量が可能です。
結論
高品位鉱の埋蔵量の枯渇が進み、低品位な複雑鉱を処理する必要性が強くなるにつれて、鉱石を鉱物学的に理解して加工プロセスを工夫する重要性がますます増大しつつあります。経済性追求の観点からも、回収率の最大化と経費の適切な管理へ向けた傾向が強まっています。X線回折法は、プラント操作を最適化するために必要な鉱物学的情報を与えてくれます。オリンパスの小型で使いやすいXRD分析装置は正確なX線回折データを迅速に提供します。これにより、プロセス操作上の重要な判断をリアルタイムで下すことが可能になります。