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蛍光X線分析法による土壌中のヒ素と鉛の成分分析


不法投棄された廃棄物はしばしば土壌汚染を引き起こします

概要

数十年の間、野外用の携帯型蛍光X線分析計(XRF)は、土壌の金属汚染をその場で短時間に測定する手段として使用されてきました。この測定の目的は、汚染された土壌の広がりを特定して浄化することです。

1998年、EPA(米国環境保護庁)は、野外用ハンドヘルド(携帯型)蛍光 X線分析計による土壌成分分析手法をMethod 6200として、SWA846(EPA分析手法)に組み入れました。しかし、野外用ハンドヘルド(携帯型)蛍光X線分析計は、放射性同位元素をX線源として使用していたため、所有と運用のコストは高いものでした。また、所有する場合には規制による負担があり、放射線源の運送には公の規則を遵守しなければならず、ある地域から他の地域への運送は困難でした。

オリンパスはいち早く、放射性同位元素の代わりにX線管を利用したハンドヘルド(携帯型)蛍光X線分析計を開発しました。バッテリ駆動で使いやすいこの蛍光X線分析計では、土壌の金属成分分析に不可欠な元素をその場で測定し高品質のデータを取得することができます。

最新のX線管を搭載したハンドヘルド(携帯型)蛍光X線分析計は、20~25種類の金属元素を同時に測定することができます。測定できる金属元素には、RCRA(資源保全再生法)金属元素とEPA有害汚染金属元素を含みます。オリンパスのハンドヘルド(携帯型)蛍光X線分析計は、高感度検出器と最先端のカウントテクノロジーで優れた検出限界(LOD)を実現しています。現場に持ち運んで、その場で短時間に測定することができます。

ヒ素と鉛の分析

野外で測定が求められる代表的な金属成分元素は、鉛(Pb)とヒ素(As)です。この2つの元素は、どちらも蛍光X線分析の対象として適しています。興味深いことに、高濃度のPbが共存する場合、Asの分析には課題がいくつかありますが、高濃度のAsが共存する場合はPbの分析には影響がありません。表1に、相互干渉がない場合の検出限界(LOD)を示します。

表1 相互干渉がない場合の検出限界(LOD)
元素 検出限界、ppm
(相互干渉なし、2分間の測定時間)
Pb 2-4
As 1-3
*DP-4050 による値(2014年1月)

Fig.1aとFig.1bはラボで土壌試料のAsとPbを分析したそれぞれの結果です。さまざまな土壌試料で良好な相関関係が見られ、どちらの結果もR2の値は0.99を示しています。ハンドヘルド蛍光X線分析計の土壌分析モードは、EPA Method 6200に規定されているコンプトン散乱ノーマライゼーション法で、予め土壌標準試料を測定してキャリブレーションされています。現場に特有な土壌標準試料があれば、さらに良好な結果を提供します。

Fig.1a土壌試料のAs分析結果 ハンドヘルド蛍光X線分析計の測定結果とラボ分析結果の相関 Fig.1b土壌試料のPb分析結果 ハンドヘルド蛍光X線分析計の測定結果とラボ分析結果の相関

ハンドヘルド蛍光X線分析計は、その場の測定結果データを使用して、汚染パターンを調べ、汚染土壌の浄化を手助けします。

鉛が共存する試料中のヒ素の蛍光X線分析

ハンドヘルド(携帯型)蛍光X線分析計は、鉛とヒ素を比較的容易に測定できますが、共存する鉛が高濃度である場合は特にヒ素の測定に悪影響を与えます。鉛は、エネルギー10.5keVのLαと12.6keVのLβの2つの強いスペクトルピークを生じます。通常、鉛のLβピークが鉛の分析に使用されます。ヒ素を定量する際の最適なスペクトル線はKαピークで、鉛のLαと同じ10.5keVです。このため、目的とするヒ素のKαスペクトルのピークは、鉛のLαと完全に重なり、干渉されます。鉛の干渉は、次の2つの点でヒ素の定量に悪影響を与えます。

  • ヒ素の検出下限は悪化します。
  • ヒ素の測定精度は、同じ測定時間でわずかに低下します。(鉛が共存しない試料と比較したとき)

オリンパスのソフトウェアのアルゴリズムは、鉛とヒ素が共存する場合、鉛の干渉を考慮してヒ素の成分量を自動計算します。このソフトウェアでは、相互干渉がない鉛のLβの測定値を基に、鉛のLα(10.5keV)の成分量を計算し、10.5keVピーク測定値から鉛のLαの成分量を差し引き、ヒ素のKαの成分量を算出します。

しかし、ヒ素の測定結果の精度(およびヒ素の検出限界)は影響を受けます。なぜなら、10.5keVピーク測定値から鉛のLαの成分量を差し引くことによる統計的な不確かさがヒ素の測定結果の精度を低下させるからです。鉛の濃度がごくわずかな場合は、この影響はありません。

ヒ素の検出限界と測定精度に関する影響は、計算で求めることができます。Fig.2は、ヒ素の検出限界を鉛の濃度の関数として示したものです。X線測定の統計に基く次式が示すとおり、ヒ素の検出限界は鉛濃度の平方根が増加するにつれて増加します。

式

Fig2は、ヒ素の検出限界(y軸)を、共存する鉛の濃度(x軸)の関数として、計算で算出した値(実線)と測定した値で示しています。たとえば、試料に共存する鉛が検出下限以下しかない場合(<13ppm)、ヒ素の検出限界は約9ppmです。Asの検出限界は、鉛100ppmで約19ppmに、鉛1,000ppmで約45ppmに徐々に増えていきます。このように、鉛の濃度が100ppmから1,000ppmへと10倍に増えると、検出限界は約2.5倍悪化します。ヒ素の測定結果の精度への影響にも同様の傾向があります。

Fig2             As検出限界への共存Pb濃度の影響

まとめ

オリンパスのハンドヘルド蛍光X線分析計は最新のX線菅を採用しているため、土壌の主な有害金属成分を短時間、高精度で測定します。鉛とヒ素の2つは、分析対象となる最も一般的な元素です。ハンドヘルド(携帯型)蛍光X線分析計は、測定精度が高く、検出限界が低いため、これらの元素を測定する最適な方法ということができます。

鉛の含有濃度が高い試料に含まれる低濃度のヒ素を測定しようとする場合、ヒ素の測定値に鉛の測定値が大きく干渉するため問題が生じます。ヒ素の測定値への鉛濃度の影響を定量化することで、オリンパスのハンドヘルド(携帯型)蛍光X線分析計は、鉛とヒ素が共存する土壌試料でも、鉛とヒ素を正確に測定し、質の高いデータを取得します。鉛とヒ素が共存しない土壌試料では、干渉もなく、検出下限のさらに良好なデータを取得します。

Olympus IMS

この用途に使用される製品
環境用ハンドヘルド蛍光X線分析計DELTAは、資源保全再生法(RCRA)の危険な高レベル、重要汚染物質、有害金属を数秒で検査します。 ハンドヘルド蛍光X線分析計は、EPA 6200やその他のSOPに従った土壌や堆積物の検査、NIOSHまたはOSHAにより規定されたフィルター検査、表面のスクリーニング、埃を拭き取る繊維の鉛(Pb)、カドミウム(Cd)、クロム(Cr)、ヒ素(As)、水銀(Hg)などの測定に使用されています。
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