はじめに:
フェーズドアレイの領域判別法による自動超音波試験(AUT)は、パイプラインの周溶接検査用として一般的に用いられている手法です。AUTにより、不具合を示す指標の正確なサイズ判別が可能になり、高さ方向のサイズ判別では1mm程度の精度を持つことが実証されています。その一方、この分野で使用されるシームレスパイプは、製造プロセスの問題により肉厚にかなりの変動があることも知られています。領域判別を使用してこのようなパイプを検査しようとする場合に問題となるのは、肉厚や形状の変動のために超音波ビームが目標点を完全に外してしまう恐れがあることです。オリンパスのPipeWIZARDはこのような問題を解決し、所要時間の短縮とコストパフォーマンスの向上を実現します。
シームレスパイプ検査の課題
シームレスパイプのAUTは、肉厚が変動するという問題のため、非常に手間のかかるプロセスになりがちです。 このようなパイプをAUTで検査しようとすると、3種類の肉厚(公称値、最小値、最大値)に対応する試験片をスキャンして、それぞれに対応する3種類の異なる設定をプログラムしなければなりません。実際に溶接部のデータを取得する前にビームを正しく校正するためには、パイプで起こり得るあらゆる肉厚変動を考慮して検査の設定をしなければなりません。この手続きを実行するためには、それぞれの条件の溶接箇所を別々にスキャンする必要があるため、用意する試験片の数や、スキャンの回数、解析しなければならないデータファイルの数が3倍に増え、それに対応して所要時間とコストが増大します。
PipeWIZARDによる課題解決
肉厚が変動するパイプの検査を容易にするため、オリンパスのPipeWIZARDは1回のパスだけで溶接部を完全にカバーできるよう、追加の超音波ビーム自動生成機能をソフトウェアオプションとして備えています。PipeWIZARDソフトウェアを使用する場合、オペレーターは、メーカーが提供する許容値データを参照して起こり得る最大、最小肉厚値を入力します。ソフトウェアは最小値と最大値を使用して自動的に3種類の設定を構築し、全範囲をカバーできるように超音波ビームを割り付けます。校正のために使用する試験片は1つだけです。校正時に中程度の肉厚を対象として設定するパラメーターをもとに、ソフトウェアが薄肉厚と厚肉厚用に対応するビームパラメーターを生成します。溶接検査を実行すると、システムは3種類の設定データを同時に取得します。データを解析するときは、スキャン中にそれぞれのフェーズドアレイプローブが取り込んだパイプ肉厚値を参照しながら、適切と思われる画像をオペレーターが選択して表示します。ソフトウェアの設定作成メニュー(図1)には、それぞれのビームに対応するラインがグラフ表示され、構成ごとに色分け表示されるため、設定内容を簡単に理解することができます。それぞれの肉厚に対応するすべてのデータが記録されるので、試験片または溶接部における1回のスキャンが終われば、どのデータでもソフトウェアで簡単に選択することができます。
肉厚変動に対応するPipeWIZARDを使用する利点のまとめ
PipeWIZARDの肉厚変動ツールを利用すれば、シームレスパイプの溶接箇所を正確に検査することができます。この方法を使用する利点は次のとおりです。
- 1回のスキャンのみで検査可能なため、現場での生産性が向上(3回のスキャンは不要)
- シームレスパイプ周溶接の正確な検査
- 溶接部の全領域を1回のパスで完全にカバー
- 問題箇所の精密な高さサイズ判別
- 直観的に理解できる使いやすいソフトウェア
結論
AUT領域判別とPipeWIZARDシステムによる溶接部の検査は、測定が正確であるばかりでなく、問題発生の兆候を示す箇所を正しく特定できる手法です。シームレスパイプの溶接検査に肉厚変動ツールを使用すれば、非常に高い精度での溶接検査が可能になります。PipeWIZARDシステムの使用により得られる最も重要な特長は、必要な試験片が1個のみであり、溶接部位の検査に必要なスキャンの回数が限定されることです。これにより、時間と経費の大幅な削減が可能になります。