はじめに:
現代のパイプライン産業では、腐食性のある流体を輸送するパイプラインの保護を目的として耐食合金(CRA)が幅広く使用されています。さまざまなCRA材料の組み合わせや肉厚のものが使用されていますが、多くの場合、炭素鋼を母材とするパイプの内側に層状のCRAを接合するという方法がとられています。パイプの各セグメントを接合させる溶接部もCRA材料で作られています。
耐食合金(CRA)の溶接部検査における課題
溶接部をフェーズドアレイパルスエコー方式、または標準的なピッチキャッチ法で検査する場合、超音波ビームが部品の底で反響して生ずる2番目のビーム経路が溶接ベベルとキャップ領域を通過します。しかし、CRA合金は粒状構造や音速などでパイプ母材とは異なる特性を持つため、パイプの内側にCRAが貼り付けられているとCRA層をビームが通過するときにモード変換を起こし、解析が非常に難しくなります。 そこで反響を利用せずに、縦波を発生させるフェースドアレイプローブを溶接ベベルの反対側にセットしてパルスを発生させるという方式が考えられます。しかし、CRAは一般に信号を強く減衰させるため、S/Nが低下してビームの透過性が悪くなります。 これに加えて、溶接箇所の上端部(表面や表面直下)が検査されずに残ってしまうという問題があります。
デュアル・リニア・アレイ・プローブ(PipeWIZARD用)によるCRA溶接部検査の課題解決(PipeWIZARDシステム)
デュアル・リニア・アレイ・プローブ(PipeWIZARD用)をPipeWIZARDスキャナーに固定して性質の異なる溶接箇所の検査に使用することができます(図1)。 そのために必要な装置は次のとおりです。
- PipeWIZARD(ソフトウェア最新バージョン(U8110022)搭載)
- 4QL15-A27デュアル・リニア・アレイ・プローブ(PipeWIZARD用)(Q3300143)
- ウエッジ✕2(SA27-DNCR-IRC-AODxまたはSA27-DN55L-FDx-IRC-AODx)
- SA27-IRCウエッジ用PipeWIZARDリング✕2(Q1100053)
- SA27-IRCリング用PipeWIZARDフォーク✕2(Q1100054)
技術の利点
デュアル・リニア・アレイ・プローブ(PipeWIZARD用)をPipeWIZARDと共に使用することにより、CRA被覆したパイプラインの溶接部を正確に検査することができます。この手法には次のような利点があります。
- フェーズドアレイS-スキャンの利点を低周波送受信縦方向(TRL)検査と組み合わせることにより、減衰の著しい材料でも優れた透過性が得られる。
- 送信器と受信器の両方を備えた構成を持つことから、背の低い、接触面積の小さなウエッジでも使用可能。そのため、縦方向パルスエコー検査に必須なウエッジ減衰材料や広いスタンドオフが不要。
- プローブを溶接部に近づけて設置できるためS/Nが向上し、UT経路が短くなる。
- 底面からの反射がないので、高角度からの検査により、溶接部表面や表面直下の検査が可能となる。
図2:CRA溶接の問題箇所を示すS-スキャン画像
結論
PipeWIZARDスキャナーに4系統構成のフェーズドアレイのデュアル・リニア・アレイ・プローブ(PipeWIZARD用)を固定することにより、異種周溶接部を持つCRAパイプラインを効率的に検査することができます。このプローブとウエッジの使用により、両面の同時検査を含めて、溶接部を1回のパスだけで完全にカバーすることができます。反響を使用せずに、超音波ビームの1行路だけで溶接部の検査を行うので、データの品質が向上します。さらに、S/Nが向上して、信号の透過性も改善されます。
CRAでは材料と肉厚の様々な組み合わせを使用するため、プロジェクトごとに最適な検査法を決める必要があります。検出とサイズ判別精度の限界は何回かの試行を繰り返して決める以外に方法がないため、検査対象となるパイプラインと同じ材料で作られた試験片で試験を行うことをお薦めします。