最初の10~20年間、超音波機器は以下のような3種類の探触子の技術に依存していました。先ず、一振動子探型触子(single element
transducers)と呼ばれるもので、ピエゾ圧電素子を使って音波を発信、受信するもの、次に二振動子型探触子(dual element
transducers)と呼ばれる発信用と受信用に別々の圧電素子を用いたもの、そして三番目にピッチ/キャッチ、もしくは透過法と称されるもので、一対の一振動子型探触子を組み合せて使用します。これらの技術は、産業用探傷および厚さ測定用超音波機器の大半の製品に現在も使用されています。しかし最近では、超音波フェーズドアレイを使用した機器が超音波非破壊検査分野でその重要性を着実に増しています。
波動の干渉による強め合い、干渉による弱め合いの原理を最初に立証したのは英国の科学者トーマス・ヤング(Thomas Young)です。彼は1801年に2点光源(two
point sources of
light)を用いて干渉パターンを作るという注目すべ実験をしました。その実験において、2つの波が合った同相の場合は相互に波を強化し合う一方、2つの波が180度ずれた逆相の場合は相互に波を打ち消し合うことを立証しました。
位相シフト、あるいは位相整合は、言い換えると2点もしくはそれ以上の波の発生源(sources)から生成される波面を、時間移動することによって相互作用を制御する方法であり、波面のエネルギーを曲げ、ステアリングし、フォーカスすることに使用できます。1960年代には研究者は超音波フェーズドアレイシステムの開発に着手しましたが、それは干渉パターンの制御によって音波ビームを導く様に、発信のタイミングが制御された複数の振動素子(multiple point source transducers)を利用したものでした。1970年代に入ると, 医療診断用に最初の超音波フェーズドアレイシステムの商品が登場しますが、これは広い視野角でビーム走査を行い、人体内部の断面像を作成したものでした。
当初 超音波フェーズドアレイシステムは、医療用にその使用が限定されていました。そこには人体の組成および構造が予測可能であり、機器設計および画像解釈が比較的簡単であるという事実がありました。一方、産業用の利用には医療用に比べて大きな難題がありました。産業用試験の全般にわたる問題として、途方もない種類の厚さおよび形状が存在し、さらに、金属、複合材料、セラミックス、グラスファイバーなどが持つ、多様な音響特性が存在するからです。最初の産業用フェーズドアレイシステムは1980年代に導入されましが、装置が極めて大きい上にデータ処理や画像表示のため、データをコンピューターに転送することが必要でした。こうしたシステムは、最も典型的なアプリケーションとして稼働中の発電所の検査で使用され、特に原子力関連分野で積極的に推進されました。厳しい検査が要求されるこうした分野では、検出確率向上のために先進技術を利用することが他の分野に比べ一層強く求められていたからです。その他の初期アプリケーションとして、大型鍛造シャフトと低圧タービン部品があります。
ポータブル型でバッテリー駆動の産業用フェーズドアレイ機器は1990年代に登場します。アナログ設計では、ビームステアリングに必要な多チャンネルUTシステムを造るために大きな電気出力とスペースが必要でした。しかしデジタル化への移行と廉価な埋め込み型マイクロプロセッサーの急速な発達により、次世代型の超音波フェーズドアレイ機器の開発が一層加速されることになりました。 さらに低電力電子部品、優れた省電力基本設計、そして表面実装基板設計の普及により、先進技術の微細化が可能となりました。この結果、超音波フェーズドアレイ機器は、設定、データ処理、表示、および分析の全ての機能をポータブル機器の中に収めることが可能となり、産業用分野全体でさらに普及する道が開けました。このことは、共通用途における標準フェーズドアレイプローブ仕様の特定化を促すことになりました。