1. 背景
風力発電は効率的に発電する再生可能エネルギー源ですが、内部装置、特にギアボックスの構造は複雑であり、損傷や使用不能期間、場合によっては火災を防ぐために定期的に検査する必要があります。ギアボックスの検査に使われる工業用内視鏡は、内部が暗く、潤滑油により照明光の反射が発生する状況において使用します。このような条件下では、高い操作性、高機能照明、高いレンズ性能が検査の効率性やスピード、信頼性を決定付ける重要な要素となります。
当社は、検査時間の節約と品質改善のために風力発電機検査と最新の技術革新の課題を検討しています。事例では、ギアボックス検査の時間短縮と検査効率の向上を、ALL NRG社のDanijel Bogojevic業務部長がIPLEX RXの各機能を以下に使いこなしたのか紹介します。
風力発電は、再生可能エネルギー源として不可欠です。EUは2015年、風力発電が占めるエネルギーの割合が11.4%であると推定し、2020年には再生可能エネルギーの割合を20%とする実効性のある目標を設定しているので需要増が見込まれます。
商用風力タービンは20年以上稼働可能です。発電機の使用中には、段階的に、または突然不具合を発生することがあります。風力発電機で発生する不具合には、装置内さび、湿度や落雷、物理的破損などがあります。
風力発電用ギアボックスは特に重要で影響が大きい部品です。高速回転による応力集中や回転部品の組み合わせによる歪み発生を考慮すると、ギアボックスで使う材料が特殊なものになること、ギアボックスのいずれかの部品が損傷すると装置のそれ以外の部品に対して容易に影響する恐れがあることを意味します。例えば、1つの部品が損傷すると破片となって歯車や軸受に挟まり、損傷を連鎖拡大させる恐れがあります。
2. ギアボックス検査による発電機寿命の延長
日頃からの予防策として不具合の兆候を把握するため、風力発電機用ギアボックスを定期的に検査することで修理と使用不能期間を防ぐことで装置の寿命延長につなげます。工業用内視鏡を使うことでギアボックス内部の状況検査と写真撮影を行います。
図1 風力発電機用ギアボックスの概要
ギアボックスの内部は一連の変速機構から構成されており、ブレードによる低速回転を高速回転へ変速して発電機を回します(図1)。各部品は、振動、潤滑油に混入する異物、過重応力により損傷する恐れがあります。検査で重要な部分は以下のとおりです。
- 低速軸に対応する遊星軸受と遊星歯車。低速軸は毎分約20〜30回転(rpm)で回転しますが、気象状況が変わりやすい場合、低速軸からかかる大きな応力を遊星軸受で吸収しなければなりません。遊星歯車の構造は複雑でギアボックス内にあるということで内視鏡が届きにくい構造になっています。
- 中速軸受は中速軸に対応し、前後、すなわち他の軸の直下にあります。 中速軸受は、設置条件により検査しにくい部品です。
- 高速軸受は検査しやすい場所にある部品ですが、1500から1800 rmpという高速回転により損傷する可能性が非常に高くなります。 また、高速回転することは、高速軸受が損傷するとすぐにほかの部品に影響する可能性が非常に高いということになります。
3. ギアボックス検査の課題
風力発電機用ギアボックスの構造は、内視鏡検査にとって、ハードルの高いものです。このような状況に対処するには使用する内視鏡の選定条件が厳しくなります。
- 操作性。工業用内視鏡でギアボックスの検査を効果的に行うには、最も狭い開口部より細い内視鏡を挿入部が必要です。また、装置内潤滑油などで内視鏡のレンズが汚れる可能性があります。
- 明るい照明。ギアボックスの奥、または広くて暗い空間を明るくするために、内視鏡の照明は協力で明るいものが必要となります。
- ギラツキ。光沢や潤滑油に覆われた金属面を検査する場合、反射光によるギラツキでその表面の欠陥を検出することが困難になる恐れがあります。
- 油汚れ。潤滑油は発電機運転に欠かせません。しかし、検査時、内視鏡先端に油が付着することがあります。潤滑油のレンズ効果で観察映像が歪み、正しい判断ができなくなることがあるため、レンズ清掃をしないといけません。
- 持ち運びやすさ。風力発電機のタワー、ナセル内部は非常に狭いのでコンパクトな機器が求められます。
4. 時間の節約と画質の向上
オリンパスの工業用内視鏡IPLEX RXには、風力発電機用ギアボックスの内視鏡検査をすばやく確実に行えるよう設計されています。高品質なレンズ性能、革新的なソフトウェアやハードウェア、持ち運びやすさという特長を兼ね備えているために、風力発電産業にとってIPLEX RXは信頼性の高い選択肢となっています。
油除去先端アダプター
独自の油除去先端アダプター(図2)は、油の付着しやすい密閉空間で検査時間を短縮するために特に設計されたものであり、油の付着を気にせず検査できます。従来の先端部では油に触れると画像が不鮮明になり、内視鏡先端部を引き出して清掃が必要でした。
この問題を解決するにあたり、油除去溝を入れています。油がレンズにつくと毛管作用でレンズから溝へ排出され、検査を続けることができます。
図2: 油除去アダプターにはレンズ周辺に狭い溝を入れており、レンズ表面から油が排出されていきます。
自動調光機能
照明では、明暗差の大きな環境への適応が課題です。このような条件では、コントラストと検出率を上げる自動調光できる照明が必要となります。
IPLEX RXにはPulsarPic画像処理機能が搭載されており、明るさを自動的に最適化し、ノイズを少なくし、画像を鮮明にします。これにより、IPLEX RXは輝度と鮮明度のバランスを取り、ギアボックス検査の効率をあげることができます。
パワーアシスト式湾曲機能
スコープ先端の湾曲部の操作は、検査員がいかに速く検査部位に到達できるかの決め手になります。ギアボックスのように目的部位への経路が煩雑な場合に、スムーズな湾曲機能は検査時間を大幅に節約できる手段となります。
IPLEX RX のパワーアシスト式湾曲機能TrueFeelを使用することにより、狭い穴や開口部を通り抜けて、より簡単により早く検査できるようになります。
5. 事例: ALL NRG社でのギアボックスの検査
ALL NRG 社では、陸上発電会社と洋上発電会社の双方に風車を設置、検査を行っています。デンマークを本社とし、風力発電機専門検査員を有し、各検査員は毎年数百件にものぼる検査を行っています。
Danijel Bogojevic氏は専門検査員として、各種の内視鏡(図3)を使って、1000台以上のギアボックスの検査を行ってきました。同氏は、「内視鏡検査は、ギアボックスや他の軸受を検査する唯一の方法です。オリンパスは好みのメーカーです。過去数年間で、多数の検査を行ってきましたが、従来の内視鏡をIPLEX RXに変えたときの画質の変化には驚きました」と述べています。
図3 IPLEX RXを使ってギアボックスの検査を行っているALL NRG社の検査員Danijel Bogojevic氏
IPLEXを導入することでALL NRG社の検査レベルが多くの面で向上しました。同氏は次のようにも説明しています。「IPLEX RXは、私がこれまで使っていた内視鏡と比べると光学性能と照明機能が大幅に向上しました。照度がこれまでよりはるかに高いということは、進みたいところがすぐに見えるということです。方向付けもさらに簡単となり、移動がより速くなり、検査時間がかなり短くなります」(図4)。
図4 自動調光可能な照明は金属面からのギラツキの防止に役立ち、軸受の損傷が検出しやすくなります。
オリンパスのレンズ性能がALL NRG社でのスムーズな検査作業の流れに大きく貢献しています。同氏は次のように指摘しています。「従来は自分が見ている検査対象に応じて短焦点レンズと長焦点レンズの切り換えをしなければならなかったのですが、被写界深度がはるかに優れているIPLEX RXでは、どんなものでも短焦点レンズひとつで済ませることができます」(図5)。
図5 深い被写界深度のレンズを使うと、検査員は広い空間をより速く検査できるようになります。
同氏がさらに感心している部品は油除去アダプターで、ある事例を次のように紹介しています。「デンマークのオバコー風力発電所にあるNEG-Micon 72/2000風力発電機のギアボックスの検査でIPLEX RXとこの新型アダプターを試しました。油が多くて届きにくい場所を検査する場合、検査時間をかなり節約することができます。また、油に触れても画像を常時撮ることができるようになるので、新人の検査員にとっても、非常に優れた手段となるでしょう」(図6)。
図6 ギアの歯面
6. まとめ
ギアボックスの定期検査は、風力発電機の故障期間を短くし、不具合の早期発見によりギアボックス交換に至ることがないようにする費用対効果の高い手段です。ギアボックスの総合検査は、軸受やギアの歯などアクセスしにくい部分を確認するため高性能なポータブルビデオスコープは必要不可欠でしょう。
きれいな画像と検査時間の短縮化は重要な要素です。IPLEX RXはLL NRG社における検査全体に影響するのです。同氏は次のようにも述べています。「IPLEX RXの画像には私だけでなく自分のクライアントも満足しています。IPLEX RXを使うと自分の検査時間が従来比で半減し、レポート作成の質も向上しました」。