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表面処理したフィルム性状の定量化:空間パラメーターの比較

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食品用のプラスチックラップ

工業材料、食品パッケージ、日用品など、さまざまな分野で使用されるフィルムの表面は、用途に合わせて透明度、光沢、耐水性、耐汚染性などの機能を付加するために処理・加工されます。

表面処理の評価では、フィルムを光にかざして表面の光沢やフィルム越しの可視性を目で確認する方法が取られる一方で、フィルム表面性状の違いを定量的に評価する必要もあります。

フィルム表面の違いを定量化する場合、表面性状の定量的尺度として表面粗さを評価するのが一般的です。Sa、Sdq、Sdrは、高さ(Z)方向の表面特性評価に使用する標準的な表面粗さパラメーターです。ただし、表面粗さ(高さ)はフィルム性状を視覚的に捉える1要素にすぎません。微細パターンの性状や平面(XY)方向に広がるパターンも大きな影響を及ぼします。

ほとんどの表面粗さパラメーターは高さ要素を評価しますが、Sal(自己相関長さ)とStr(テクスチャのアスペクト比)だけは平面要素を評価するパラメーターです。

表面処理フィルムの性状の違いの定量化:実験

これらの平面方向パラメーターがフィルム表面性状の測定にどのように役立つかを理解するため、異なる性状を持つ3種類のフィルムを比較する実験を行いました。

フィルム表面性状

フィルム1はフィルム越しの文字がはっきりと見え、フィルム2と3はフィルム越しの文字が異なる視覚テクスチャで曇って見えます。これらの3種類のフィルムを平面方向パラメーターSalとStrで定量化する場合、どのような結果になるかを見ていきましょう。

SalとStrの概要

実験データを見る前に、各パラメーターの基本をおさらいします。

Sal(自己相関長さ)は、凹凸のある画像が元の画像とどれだけ似ている(または似ていない)かを、水平方向(τx、τy)にずらすことで測定します。つまり、ずらす前後の画像の類似度を示します。筋目や粒子など、表面の凹凸形状の密集度合いを長さの単位で数値化したものです。

結果の定量化には以下のステップを用います。

  1. 凹凸のある画像を水平方向(τx、τy)に1画素ずつずらします。
  2. 下の図で、ずらして重なり合う斜線部分の高さ値を乗算した後、さらに正規化などの演算を行います。これらの過程を自己相関演算といいます。こうして元の画像から変換された自己相関画像が作成されます。
     

    自己相関画像の作成過程

    自己相関画像の作成過程

  3. 数学的に表すと、自己相関関数(ACF)は以下のようになります。

  4. 自己相関画像の相関値s(0 ≤ s < 1、指定のない場合はs = 0.2)に減衰する最も近い横方向の距離(rmin)がSal値です。

Str(テクスチャのアスペクト比)は、自己相関画像の相関値s(0 ≤ s < 1、指定のない場合はs = 0.2)に減衰する最も遠い横方向の距離(rmax)とSal(rmin)の比として定義されます。

SalとStrの3次元(3D)表示を以下に示します。

表面粗さパラメーターSalおよびStrの3D表示

SalとStrの2次元(2D)表示を以下に示します。

表面粗さパラメーターSalおよびStrの2D表示

表面粗さパラメーターSalおよびStrの2D表示

Sal = 1.27 μmStr = 1.27/1.69 = 0.752

Salは、値が小さいほど表面の凹凸が険しく、値が大きいほど形状支配が緩やかになります。Strは0~1の範囲をとり、通常Str > 0.5で強い等方性*を示し、反対にStr < 0.3で強い異方性**を示します。

* 性質と分布があらゆる方向で独立していること。ここでは、形状の分布は均一に広がり、どの方向にも偏りがないことを示します。
** 性質または分布がある方向に依存していること。ここでは、形状の分布が特定の方向に広がっていることを示します。

3Dレーザー走査型顕微鏡による3種類のフィルム表面の評価

この実験では、まずLEXT™ OLS5100 3Dレーザー走査型顕微鏡を使って、3種類のフィルムの表面性状を3次元で目視しました。

3Dデータを取得するために、OLS5100顕微鏡は405 nm紫色レーザー光でサンプル表面をスキャンします。405 nmの波長に適合し、収差を抑えるLEXT専用の対物レンズによって、従来の光学顕微鏡や一般的なレーザー顕微鏡では捉えにくい、微細なパターンや欠陥をはっきり捉えられます。光学系による測定は非接触でもあるので、フィルムのように柔らかいサンプルでも表面を損傷する心配がありません。

3D共焦点レーザー顕微鏡の対物レンズ

LEXT専用対物レンズ(左から右):低倍率対物レンズ10X、高性能対物レンズ20X、50X、100X、長作動距離用の対物レンズ20X、50X、100X。

赤色レーザーで捉えた表面性状

赤色レーザー(658 nm:0.26 μmラインアンドスペース)

紫色レーザーで捉えた表面性状

紫色レーザー(405 nm:0.12 μmラインアンドスペース)

さらに、OLS5100顕微鏡はISO 25178に従って信頼性の高い表面粗さ解析を行い、SalおよびStrパラメーター(表面粗さに特有)を評価し、複数の画像を1つに貼り合わせて高精度の広視野データを取得することができます。マクロマップで貼り合わせ画像から領域を指定することもでき、表面性状の解析が楽になります。

この最後の機能について、以下のステップで説明します。ここでは貼り合わせ画像を作成し、フィルム表面のより広い領域から表面粗さデータを取得します。

より広い視点からの表面粗さデータの取得

人間の目で見えるサイズの限界は約0.1~0.2 mmであり、視認できるフィルム表面性状はそれ以上大きなサイズになります。

フィルムの表面性状にはもっと小さな凹凸があるので、データ取得時にはより高い分解能と倍率の対物レンズを選ぶことが重要です。高性能レンズでは、分解能が高くなるのと引き換えに視野の観察範囲が狭くなるため、OLS5100顕微鏡の貼り合わせモードは広視野観察に便利です。

高倍率対物レンズで取得した個々の画像を(基本的にパズルのようにつなぎ合わせて)貼り合わせ、数十から数百mmの間隔で広く散在する特徴を持つ、高解像・広視野画像を取得できます。

貼り合わせ前の個別の2D画像

貼り合わせ前の個別の2D画像

貼り合わせ後の2D画像

貼り合わせ後の2D画像

フィルム表面性状の広視野表示

左:9 × 9の貼り合わせた高さ画像(50X対物レンズ、約2,000 µm四方)。高さ画像は、色分けされた高さデータを表す2D画像です。右:単一画像、約250 µm。貼り合わせ画像で見ると、大小の性状が数十から数百µmの間隔で広がっているのがわかります。

では、3種類のフィルムを実際に解析した結果を見てみましょう。

下に示すのは、OLS5100顕微鏡でフィルム1~3それぞれの表面について、約2 mm四方の領域を撮影した3D画像と、表面粗さ測定結果です。

フィルム表面性状の3D表示

フィルム1~3の3D画像比較。下の列は9 × 9の貼り合わせ画像(50X対物レンズ、約2000 µm四方)を示します。
 

サンプル Sa [µm]
Film 1_ob50x_9x9 0.069
Film 2_ob50x_9x9 1.181
Film 3_ob50x_9x9 0.391

表面粗さ値(Sa)

上の表に示すように、表面粗さの評価によく使われるSa(算術平均高さ)では、3種類のフィルム表面の凹凸の違いが値にはっきり表れています。視覚的な表面の外観と3D凹凸の分布の相関関係から、フィルム1は表面が滑らかであることが分かります。対照的に、フィルム2と3は局部的または全体的に凹凸のある表面です。

では次に、この凹凸の広がりを定量化する粗さパラメーター、Sal(自己相関長さ)とStr(テクスチャのアスペクト比)を見ていきましょう。

サンプル Sa [µm]Sal [µm]Str
Film 1_ob50x_9x9 0.069 244.26 0.605
Film 2_ob50x_9x9 1.181 120.65 0.865
Film 3_ob50x_9x9 0.391 35.162 0.839

表面粗さ値(Sa、Sal、Str)

前述のように、Salの値が小さいほど表面の凹凸が険しく、値が大きいほど形状支配が緩やかになります。サンプルのSal値は、上の表に示すように関連しています。3D画像と併せて見ると分かるように、値が高いフィルム1は緩やかな表面形状を示しています。それに対して値が低いフィルム3は険しい表面形状と細かい粒子を示しています。

Strは、相関値s(0 ≤ s < 1、指定のない場合はs = 0.2)に減衰する最も遠い横方向の距離(rmax)とSal(rmin)の比として定義されます。以下の式で表されます。

Sal = rmin
Str = rmin/rmax

3つのサンプルのStr値は、フィルム2と3ではあまり違いがありませんが、これら2つのフィルムとフィルム1ではいくらか違いがあります。

Strの範囲は0~1です。通常Str > 0.5で強い等方性を示し、Str < 0.3で強い異方性を示しますが、3つのサンプルはすべて0.5より大きい値になっています。したがって、凹凸形状の分布は等方的であると結論づけることができます。どちらかというと、0.3に近いフィルム1は、0.5を大きく上回るフィルム2と3に比べてやや異方的です。

表面性状の等方性と異方性
 

高さ画像

フィルム表面性状の3D画像

自己相関画像

フィルム表面性状の自己相関画像

自己相関画像の拡大表示

フィルム表面性状の自己相関画像
 

空間パラメーターによるフィルム性状の違いの判別

データから、異なる性状外観を持つ3つのフィルム表面について、以下のように結論づけることができます。

  • Sa(算術平均高さ)値より、フィルムがクリアに見える(フィルム1)ほど、表面は凹凸が少なく滑らかになります。
  • Sal(自己相関長さ)値より、値が高いフィルム1の表面は緩やかな形状をしています。値が低いフィルム3の表面は険しい形状と細かい粒子を示します。
  • Str(テクスチャのアスペクト比)値より、すべてのサンプルで表面の凹凸の分布が均一に広がり、偏りがありません(等方的)。3つを比べると、フィルム1は他の2つよりやや方向性があります(やや異方的)。

データの信頼性が高いOLS5100顕微鏡は、幅広い分野でフィルムの表面粗さの評価に役立つことが期待されます。OLS5100 3D共焦点レーザー顕微鏡を使用したフィルム表面粗さ測定の詳細は、当社専門チームにお問い合わせください
 

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Marketing Specialist, Metrology Solutions

Suzue Izumi is a marketing specialist for metrology solutions at Evident. Since joining Evident in 2001, she has performed many demonstrations as a laser confocal microscope specialist. In addition to visiting laser confocal microscope users in Japan to provide technical support for system operations and data analysis, she provides application support globally.

2月 20, 2024
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